書店でパーソナルブランディングに関する書籍をよく見かけるようになりました。
パーソナルブランディングと聞くと、個人で仕事をしている個人事業主やデザイナー、弁護士をはじめとする士業の方々など、自分自身を看板に仕事する人たちをイメージする方が多いかと思います。
昨今の働き方改革で、副業を認める企業が増えていることから、会社以外の仕事を自身の看板で請け負う会社員が増えていることもあり、パーソナルブランディングに注目が集まっています。
筆者も先日、前職が早期退職制度の一貫で個人事業主制度を始めたことから、早期退職後の働き方についてインタビューを受けました。
このように、働き方の変化の中で、パーソナルブランディングに必要性を感じている人が増えている背景があります。
しかしながら、パーソナルブランディングは、自身を看板に仕事をする人のみならず、企業で専業で働く人にとっても必要なスキルです。
そもそも、当社ではブランディングを「幸せな関係づくり」と定義しています。
その観点からいうと、パーソナルブランディングは、会社で働くワタシと本来のワタシの幸せな関係づくりです。
「仕事における自己実現」のための方策です。
様々な企業で、従業員のモチベーションや、エンゲージメントの向上が課題になっています。
それは、生産性の向上のためといった経営的な課題だけでなく、企業で働く個人がその企業への愛着や誇りが低い状態では、優れた商品やサービスを提供できないからです。
また、従業員のモチベーションは、社員の自己実現と大きく関係し、それが満たされない職場は自ずと離職率が高まります。
そうしたことから、パーソナルブランディングに取り組む企業が増えています。
当社にもそのような相談をいただく機会が増えてきました。
では、社員のパーソナルブランディングとはどのようなことでしょう?
企業ブランディングと聞くと、他社との差別化やイメージアップという印象を受けるかも知れません。
ブランディングとは他社との差別ポイントを強化する方策という考え方には、筆者は少し違和感を覚えます。
当社では、ブランディングをサポートする際、それは企業ブランディングであったとしても、商品ブランディングであったとしても、まず「その企業の独自性・らしさ・存在価値」を明らかにするところから始めます。
パーソナルブランディングでも同様の考え方を持ちます。
つまり、パーソナルブランディングとは、自身を他者との差別化という考え方ではなく、「自分自身の独自価値や私らしさ」を明らかにし、その価値を企業や社会のなかで輝かせていくプロセスです。
社員が自分らしさを理解し、その価値を輝かせながら、会社のビジョンやミッションを担っていく。
そうした取組みが、社員のモチベーションを向上させ、愛着と誇りの源泉になっていきます。
そのような取組みを積極的に行う会社の商品やサービスには、自ずと魅力が備わっていきます。
それが、結果として企業ブランドを本質的に向上させることになります。
社員のパーソナルブランディングを進めた結果、企業が得られるものは多きく二つあります。
一つは、従業員のモチベーションの向上です。
もう一つは、事業の活性化が図れます。
従業員のモチベーションはどうすれば上がりますか、というご質問をよくいただきます。
モチベーション向上は「心」を対象にするの課題なので、そう簡単に方策が導けません。
しかしながら、様々な心理学者が述べているように、モチベーションを向上させる源泉は個人の「自己実現欲求」です。
その欲求を満たせそうだと思える職場であれば、その職場に愛着を持ち(帰属意識の向上)、業務に対しての誇りも高まります。
会社や組織への愛着が高く、業務への誇りをもった社員が多い企業は、事業が活性化します。
他社との差別化ばかりに目が行き、どうしたら他社よりも売上を上げられるか。シェアを伸ばせるといったことばかりに経営者の意識が向き、足元の社員のモチベーションや自社の独自価値に目を向けていない会社を見かけます。
事業を活性化しようとした際には、まずは従業員のモチベーションを高める取組みが不可欠です。
企業が行う社員のパーソナルブランディングの方法としては、まず、その企業や組織が目指す方向を明らかにし共有することから始めます。
人は、どこに向かっているか分からない組織には不安を覚えます。当然、愛着も持てません。
また、同じ方向に向かっているように見えて、本質的にはバラバラになっている場合もあります。
それは、ビジョンが共有されていないか、形骸化していることが考えられます。
その上で、次に取り組むべきは、会社や組織のビジョンを実現するために、社員がどういったことを自身のミッションにするかを明らかにすることです。
大規模な企業では、会社のビジョンに対して、社員個人のミッションを考えると、あまりにも企業ビジョンが上段すぎて、個人に落とし込めない、といったことが起こります。
その際は、企業ビジョンを実現するための、部門のミッションを設定することが有効です。
ビジョン・ミッション・バリューとは?その意味と設定プロセス。
当社が支援させていただいた、美濃市立美濃病院の事例をご紹介します。
この事例では、企業ではなく医療機関なので、病院ビジョンの設定ということになります。
美濃病院は、300人程の医療機関です。
6回ほどのワークショップに各部門の代表者30名が参加し、病院の独自価値などから目指すべき病院像(ビジョン)を設定しました。
医療機関は専門職が集まって組織が形成させます。
看護師が集まる看護部門、検査技師が集まる検査部門といった具合です。
美濃病院では、ワークショックで設定した病院のビジョンに対して、各部門がどう取り組んでビジョンの実現に貢献するかを決めていきました。
比較的人数が少ない部門では、部門内の全スタッフで病院ビジョンを学習し、部門ミッションを決めていきました。
病院ビジョンを共有し、部門のミッションを理解したうえで、この病院では個人のミッションを各スタッフが決めていきました。
それは、自身のもつ専門技術や性格をもとに「業務への心がけ」として、各自が設定します。
さらに美濃病院では、その個人の心がけを名刺に記しています。
医療機関としては珍しく、この病院では全スタッフが名刺を持っています。
それは、病院ビジョンのリマインドや自身の心がけを深化させるためのツールとして役立っています。
このように、社員一人一人の独自性やらしさを社員自身が理解し、企業や組織のビジョン実現にどのように貢献していくかを自らが決めていく。そういう取組みは社員の本来のポテンシャルを高めます。
社員のモチベーションの向上をはかるとともに、事業の活性化をもたらします。