今ほど「企業の存在意義」が問われている時代はないと思われます。
企業には「社会の一員としての会社」と「従業員の働き場」の側面があります。
ステナブルな社会の実現、SDGsの達成、DXへの対応など、社会の一員としての会社に求められる事柄。
一方、独自価値の明確化、働く意味の再構築など、従業員にとって誇りに思える働き場として求められること。
そうした中で、企業の存在意義、会社が存在する意味を構築し直す企業が増えています。
今回は、改めて「企業の存在意義」とはどのようなことか。
存在意義を明らかにすることの重要性、存在価値を高めるための取組みについて紹介させていただきます。
以下のページでは「パーパスにフォーカスした経営戦略」を4回に渡って解説しております。
第1回 今、なぜ「企業の存在意義」なのか?
第2回 企業の「存在意義」「パーパス」とは
第3回 企業の存在意義・パーパスを再構築するプロセス
第4回 企業と商品のあるべき姿を共有する方法
目次
なぜ、あなたの会社は社会の中で存在しているか?
なぜ、私の会社は存在しているのか?
この問いに、一つのヒントを与えてくれるのが、現代経営学の権威ピーター・F・ドラッガーの言葉です。
ドラッガーは、企業の目的を「顧客を創造することである“Create a customer”」と記しています。
「顧客」とは?
広辞苑では、【顧客】おとくいの客となっています。
つまり、ドラッガーの言葉を借りれば、企業とは「お得意の客を創造するために存在している」ということになります。
企業が生み出す対象を、売上でもなければ利益でもなく「顧客」としている点にこの言葉の重みを感じます。
顧客をお得意の客ととらえた場合には、「長いお付き合いをするお客様」と考えられるます。
お客様と長いお付き合いをするために企業は存在している。その前提で、自社の存在意義を見つめると、見えてくるものがあるのではないでしょうか。
一方、昨今強く企業に求められる社会的責任、サステナブルな社会の実現、SDGsの目標達成、人権尊重など。
これらの取組みが、ドラッガーの云う「顧客の創造」の為だとすると、なにか世知辛い感がぬぐえません。
企業の純粋な気持ちとして行われている社会貢献が、結局それが本音では「顧客の獲得のため」と見えてしまう懸念があります。
上記のような企業の社会貢献活動が、顧客の獲得のための建前であってはならないと考えています。もちろん、そうした意図で貢献活動に取り組んでいる企業があるのも事実です。
しかし、そうした取組みは顧客や社会から見透かされてしまいます。
ここで紹介する松下幸之助氏の「企業の社会的責任」に関する考え方はとても意義深いものがあります。
氏は、自らが考える企業の社会的責任は、大別すると次の3つになると述べています。
1.企業は本業を通じて、社会に貢献していくこと。
2.その報酬として社会から与えられるのが「利益」である。
3.企業が多くの利益を出したということは、その利益を使って、更なる社会の発展に貢献せよとの世の声である。
つまり、氏は企業は本より社会の発展に貢献するため存在しているという考え方をとっています。
その視点に立つと、企業に求められる様々な社会的責任は、企業が企業である以上負っていくべき責任と見えてきます。
「顧客の創造」といった目先の目的を超えて、社会に貢献する存在として企業のあり方に今一度立ち返るタイミングではないでしょうか。
さて、パーパスという言葉と和訳すると「目的」や「意図」となります。
私は、あえてパーパスとは「企業や会社が存在するわけ」と位置付けています。
なぜ、あなたの会社は社会の中で存在しているか?
なぜ、私の会社は存在しているのか?
企業の存在意義が、2つの質問に対する答えだとすると、存在している「わけ」と考えた方が分かりやすいと考えています。
経営革新、事業強化を進めるうえでは、バリュー・ビジョン・ミッションの設定が不可欠です。
しかし、これらを日々の業務に落とし込み、具体化させていくなかでは、「わけ」への理解がとても重要です。
会社・事業がこのビジョンを目指す「わけ」
会社・事業がこのバリューを発揮する「わけ」
会社・事業がこのミッションを担う「わけ」
「わけ」はこれらを理解し具体化していく原動力になります。
当社では、「事業強化とは幸せな関係づくり」と位置付けています。
企業が行う事業強化は、主に企業と顧客との「幸せが関係をつくること」が目的になります。
医療機関が行う事業強化は、病院と患者との幸せな関係づくりとなります。
その結果として、事業利益が成果として生まれるくるということです。
【図】事業強化は「幸せな関係づくり」
企業が顧客などと「長く幸せな関係をつくる」ために、どのような取組みが必要かを考え、実施することが事業強化です。
その際に、重要になってくるのが「自社の存在意義を明らかにする」ことです。
日々の業務に追われ、自社の存在価値に目を向ける機会は少ないかもしれません。
それでも、自社の存在価値を明らかに、それを従業員が認識し合うことから経営革新、事業強化は始まります。
自身が関わる事業や商品の存在意義や存在価値を明らかにし、それを関わる従業員で共有することは、顧客や市場、社会との良好な関係づくりにとって不可欠です。
存在意義を考える時に、企業の規模によって多少その意義は異なってくる面があります。
(規模の大小を明確に定義できる尺度はありませんが、「中小企業基本法」での定義では、中小企業は、製造業などで従業員数300人以下、資本金3億円以下の会社及び個人。サービス業で同様に100人以下、5千万以下となっています。)
いずれにしても、企業は規模が大きくなるに連れて、社会的な責任が増してきます。
その観点からすると、中小企業の存在価値は、顧客や市場の中でどのような存在として価値を提供するかという点が強調されます。
一方の大企業は、顧客や市場に加え社会全体において、どのような存在として価値を提供するかという視点が重要になってきます。グルーバル企業になれば、全世界における存在意義を考える必要があります。
もちろん、中小企業においても社会の一員としての価値の提供といった意識は不可欠です。
企業は規模が大きくなるに従って社会的な責任も増すことから、存在意義を考える上でも、社会に対してどのような価値を提供する存在かという視点をもつ必要性が増していきます。
「自社の存在意義を明らかにする」ことは、様々な効果を生み出します。
最も大きな効果は、以下の3つです。
1.従業員のモチベーションが向上すること
2.社内が同じ方向に動き出し無駄が減ること
3.価格競争に巻き込まれず利益が確保できること
そのほかにも、社会やマーケットでの存在価値が高まったり、リクルーティングが円滑になったりといった効果が表れます。
1.従業員のモチベーションが向上すること
自社の存在意義を認識して業務にあたるのと、認識しないまま業務にあたるのとでは、従業員のモチベーションは自ずと変わってきます。
自社の独自価値を明らかにし、存在意義を共通認識している企業は、職場の雰囲気も良く建設的な意見や提案が活発に出てきます。
2.社内が同じ方向に動き出し無駄が減ること
もう一つの効果としては、社内の様々な取組みにシナジー(相乗効果)が生まれます。
自社の存在意義が共有されている企業は、社内の様々な部門や従業員は、その存在意義を高めるために動きます。
そうなると、存在意義に沿っていないと思われる施策や投資はなくなり、相乗効果が生まれます。
これは生産性の向上という点でも効果的です。
3.価格競争に巻き込まれず利益が確保できること
自社の存在意義や存在価値を明らかにし、それを商品やサービス、発信する情報を通じて、顧客や市場に浸透させていくことは、利益の確保に繋がります。
多くの製品は、技術革新などによってコモディティ化(同質化)がすることは必至です。
最初は高い価値を持った商品も、他社から似た商品が発売されると、今度は価格競争に巻き込まれます。
それでも、企業の存在意義や存在価値を顧客や市場と共有できていれば、他社よりも多少価格が高くてもその企業の商品が選択されます。
そうなれば、同質化が進んだマーケットでも、利益を確保しながら事業を発展させることが可能になります。
ここで、一つお伝えしておくべきことがあります。
「自社の存在意義はみんな分かっている」と思っている経営層が意外と多いということです。
従業員は暗黙的に自社の独自価値や存在意義を理解し、共通認識となっていると考えている経営者が多いということです。
社員のヒアリングを行うと、意外と別々の認識をしていることがほとんどというのが実態です。
経営者の多くは、自社の存在意義を伝えるのは経営者の役割と思っていることから、従業員の認識がバラバラだという事実を受け入れがたいというお気持ちは分かります。
しかしながら、顧客や市場が求めるものが目まぐるしく変化する中で、自社の存在意義を明らかにし、従業員の共通認識にする意義はとても大きいものがあります。
そういった取組みを社内で推進されることをお勧めします。
では、ここからは、企業は自社の存在意義を高めるために、どのような取組みが有効か紹介させていただきます。
自社の存在価値や存在意義を再発見する取組みとして、社内メンバーによるワークショップがあります。
複数の部門から集まり、様々な視点で自社の強みや強みの背景にある要因、自社が提供している機能的な価値やその強みによって顧客にもたらしてる喜びなどを明らかにしていきます。
そこで明らかになった価値(バリュー)をベースに、今後どのような価値を社会に提供していく存在になるかを設定したものが「ビジョン」です。
そのビジョンの実現に向けて、それぞれの部門がどう機能していくのを「部門ミッション」として設定していきます。部門ミッションを設定するプロセスは、自社の存在意義や存在価値を従業員が共有し共通認識化する上で重要な取組みです。
さらには、自社のビジョンや部門のミッションを具体化するために、従業員自身が何をどう取組みかを個人のミッションとして設定するのも、自社の存在価値の自分ゴト化の観点からとても効果的な取組みです。
こうした、自社の存在価値を明らかに、従業員の自分ゴト化を促す取組みをインナーコミュニケーション(社内意識の変革)といいます。
ここまでの取組みは、自社の存在価値を従業員の共通認識化することを目的としたものです。
ビジョンやミッションといっても、それを具体化しなくては絵に描いた餅になって今います。
描いたビジョンを実現し、自社の存在価値を高めるための取組みが必要になってきます。
先ほどのワークショップの中で、ビジョン実現に向けた社内課題を明らかにしておくことが重要です。
その課題を解決し、高いモチベーションでビジョンの実現に向けて従業員が動けるよう社内施策を実施していきます。
場合によっては組織の改編や人事異動なども必要になってきます。
各部門でPDCAを繰り返しながら、ビジョン実現に向けた取組みを推進することが有効です。
その際も、部門の推進役が集まった会議を定期的に開催するなど、会社全体で整合が取れているかを確認しながら進めていくことが効果的な取組みになります。
ここまで企業の存在意義と存在価値について、それを明らかにする重要性や社内で自社の価値を共有する取組みについてお伝えしました。
企業の存在価値を見える化し、社内で共通認識化するする取組みがインナーコミュニケーションです。その取り組みは現在、多くの企業で注目されています。
社内意識の変革から社外認識の向上までを一貫したコンセプトのもとに効果を最大化する事業強化を、当社では支援しています。
一度お気軽にご相談ください。
事例の詳しい内容などご紹介させていただくとともに、企業の事情に即した効果的な取組みをご提案いたします。